ついに帰ってくるぞ!!Daft Punkが帰ってくるぞ!!
もう去年の秋口から徐々に小出しにされてきたColumbia Recordの一連のプロモーションにやられっぱなしなのだが、リリース直前に迫った中で公開されたティーザームービーが悶絶するほどヤバい。
彼らの一貫した世界観の中でオマージュとして登場する様々な元ネタが個人的にもドツボなため、全てに反応してしまうのだが、そんなアホなファンでなくても、ちょっとした音楽好きであれば、今回のDaft Punkのプロモーションと先行シングルは、Webやソーシャルメディア経由でちょっとは目に入ってきているのではないか。
音の話の前に、まず今回移籍先のSony/Columbia Recordが展開したティーザープロモーション。
最初はアメリカの人気バラエティー番組“Saturday Night Live”の合間に突然流れたティーザーCM。
うん?なにこれ?ってかこれだけ??
いや待て、この音とこのきらびやかな往年のディスコシーンを思わせるタイトルバックを観るだけで、次のアルバムがどんなことになりそうかを分からせるには十分かも。
そんな期待と思惑が、次の日からSpotを観た人や音楽系メディアでこのCMに関する話題と憶測が飛び交う。
しばらく経たずしてIntelとVICEが共同で運営するクリエイティブメディアの“The Creators Project”がThe Collaboratorsというタイトルで、今回のアルバムに参加した大物コラボアーティストたちのインタビュー動画が公開。
第一弾はディスコシーンの伝説的プロデューサーであるジョルジオ・モロダー!
続いてティーザーとなった楽曲“Get Lucky”でギターを弾いたナイルロジャース!
そしてさらに今をときめくセレブなアーティスト、ファレル・ウィリアムズ。
ダフトパンクの1stからして、ジョルジオ・モロダーやナイルロジャース辺りの人たちの影響をもろに受けてることがうかがえるだけに、まさに自分たちのルーツを召喚した感じなんだろう。
こんな舞台裏の映像で期待感をふくらませつつ、アメリカの大型フェスであるコーチェラで流されたのがこれ。
うわぁー!ロボットがナイル先生と一緒にバンド演奏してるーっ!!
このコーチェラフェスの大型スクリーンに映されたミュージックビデオを撮影した観客の投稿動画はPV数がうなぎのぼり。
そして同時期にイヴ・サン・ローランから発表されたアーティストコラボシリーズの最新作にはキラッキラのブラックスーツを着込んだダフトパンクが。ミュージックビデオで着ていたスーツと一緒!かっこいい~!
コーチェラフェスの前からfacebookなどでターゲティングアドも配信され、itune storeの予約サイトへ飛ぶよう誘導。
もちろんクリックしてしまったが、誘導先のitune storeには曲名が一切ない。全部Track01といった感じ。
にも関わらず瞬く間にUS storeの予約数1位にランクイン。
そろそろ楽曲名くらい発表してもいいだろうと思っていたら、その発表方法がまたもやひねりが効いていて、なんとtwitterが最近始めた5秒動画投稿サービスのvineにて、アルバムの全曲名を5秒で紹介する動画を投稿。
この使い方は面白い。ここまでの溜めと煽りを作ってこれたからできる使い方。
そしてついに先行シングルの“Get lucky”が各ダウンロードサイトで発売すると、早くもfan madeミュージックビデオなどやリミックスが投稿されるなど、ソーシャルメディア上でのレスポンスが返ってきている。
このシングルのリリース後は、pitchforkなどの信頼できる音楽メディアでのカバーインタビュー記事が公開され、どのようにして今回のアルバムが作られたのかが丁寧に紐解かれ、あとは実際に買って聴くのみ、というところまで来た。
あぁ~楽しみ!
自分自身はただの音楽ファンで、音楽ライターでもなんでもないのだが、彼らの曲のことも少し書いておきたい。
先行シングルのGet luckyを聴くかぎりでは、完全にミュージシャンによる生演奏で作られたダンスミュージックになっている。ループらしきものも聴き取れない、楽曲の隠し味というか出汁である“演奏の空気”のようなものが詰まっているように感じる。
「音楽を生で弾く」って言葉で書いてみると当たり前のことなんだけど、現代の音楽、特にダンスミュージックは楽器を演奏できなくても作れるし、ましてや「skillirexのあのシンセ音」みたいな形で検索すれば、youtube上でそのパラメーター設定の方法が丁寧に解説されたりしてるわ、どのレコードをサンプリングすればあの曲が作れるか、ネタ元が全部載ってたりと、音楽の作り方が公開されてしまっている状況。
PitchforkのインタビューでもDaft Punk本人たちが語っていた、「マジックは種明かしをした後はなんの感動も残らない。もう一度音楽のマジカルな部分を呼び戻したかった。」という部分がまさにこれなのではないか。
今年もまだまだ勢いが衰えないEDMの下地はDaft Punkのライブツアーやその後に続くJusticeなどのフレンチ・エレクトロ勢が大きく影響していると思うし、”One more time”や”Robot Rock”などの分かりやすさやダンスミュージックとしてもポップスとしても行ける完成度の高さが、ロックキッズすらもダンスミュージックにシフトさせる流れを作ったんだと思う。
でもDaft Punkが1stからずっとやりつづけてきたのは、かつて生音で人を踊らせていたファンクやディスコのgrooveを現代のダンスミュージックの中で忠実に再現することだったように思える。
最初に”musique”や”Da Funk”、"Around the world"を聴いた時、キックとハイハット、スネアの間にある「音の隙間」だけでこんなにgrooveが生み出せるものなのかと驚いた。
なんせ当時はハードテクノ健在の時代で、BPM145~150とかの四つ打ちばっかりかかっていた頃。確かProdigyのリーダーであるリアムがインタビューで、「やっていることは違うけど、Daft Punkは世間に『速くなくても踊れる』ということを認識させてくれた。それだけでもすごい。」と言っていたのを思い出したが、それだけエポックメイキングなことだったと思う。
その1stから継承されてきた根幹を、今回は最強の生演奏家たちと一緒に、60年代、70年代のアナログマイクやレコーディング機材を使ってスタジオの空気も含めてまるごと全てテープ録音し、その素材を現代のダンスミュージックのマナーに乗っ取って仕上げている。
これはシーケンサーのクオンタイズ・ボタンを押すだけでは絶対に生み出せないし、デジタル環境だけではほぼ真似ることができない作品(になってるはず)。しかもその仕上げている本人たちの恰好はロボットなんだから、なんとも皮肉だし、素顔を見せずにいまのデジタルミュージックの主流を変えるようなことに挑戦し続けているわけだから、そこらのパンクバンドよりもずっとPunkであるともいえる。
いまのダンスミュージックを聴き続けているとちょっと忘れがちになってしまうが、ダンスミュージックはシーケンサーやサンプラーが生まれる前から存在していたわけで、前にジャズのドキュメンタリー映画で、ハービー・ハンコックが「自分たちはダンスミュージックを作っていたんだ」と言っていたが、確かにアンプもなにもない時代は、ジャズがクラブで演奏されるブラックダンスミュージックであったと考えると、grooveの探究こそがダンスミュージックなのだと捉えることもできる。
Daft Punkがやっていることはこれに近いのかもしれない。
まだアルバムリリース前なので、実際に聴いたわけではないけど、このアルバムは2013年を代表するアルバムになるだろうし、最近ではロック方面でちょっと浮上してきているアコースティック回帰が、EDM疲れの事例に引っ張り出されていたが、ダンスミュージックシーンの中からこういった音が出てくることで、ファン層が広がったダンスミュージックに、新しい流れと聴き方の幅を持たせることになるのだろうと感じている。
CDとアナログ、両方買おうかな。